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203王翰 涼州詞二首


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邊塞詩の詩人

203 涼州詞二首 王翰


203 王翰  おうかん 687 - 726年

 はるか遠い西のかなた、異民族との戦いに送られた兵士たちには、常に生死と隣合わせであった。
 唐時代の王翰は悲しさと強がりを詠います。

涼州詞

葡萄美酒夜光杯,欲飮琵琶馬上催。

醉臥沙場君莫笑,古來征戰幾人回。


 ブドウの旨酒を夜光の杯で飲む。 酒を飲もうとすると琵琶の音が馬上より聞こえてき、琵琶の響きは、飲酒を促す。
 したたか呑んで、酔いつぶれ、そのまま土上に酔伏してしまっても、諸君、どうか笑わないでほしい。古より辺境の地に、出征した兵士たちがどれだけ生還できるというのか。 

 この詩が詠われた唐の時代、ぶどう酒は貴重な珍しい飲み物でした。その葡萄酒の美酒を湛える杯は玉や硝子で作られた夜光盃、それは見るから月の光を受け輝く異国情緒たっぷりの雰囲気を醸し出します。
 そして、そこに琵琶の音。詩の前半は、シルクロードを経てもたらされた異国のものをそろえ、琵琶の調べと一緒に宴はたけなわになっていきます。でも、そこは戦場、生死の境で戦う兵士の束の間の深酔い、辛いこと、悲しいことを抱えながら戦場での兵士としての強がりを詠っています。

涼州詞
葡萄の美酒  夜光の杯,
飮まんと欲して 琵琶馬上に催す。
醉いて 沙場に臥す 君笑ふ莫れ,
古來征戰 幾人か回る。

 殺伐とした砂漠の戦場に狩出された兵士の口を借りて作者王翰は語りかけます。昔から、この戦場に来たものがどれだけ帰ることができたというのか。自分も死ぬのが明日かもしれない。ここにいるだれもがいつまでの命か。
 だから、つかの間の歓楽、酔いつぶれて、すべてを忘れたい。死ぬことの怖さを忘れたい。
 だから、酔いつぶれて無様な姿を見たとしても、どうか笑わないでほしい。
 現実は、笑っていられる場所ではありません。それをあえて、「君莫笑」ということで、兵士の絶望感はつのります。


王翰は盛唐の詩人。687年(嗣聖四年)〜726年(開元十四年)。字は子羽。并州晉陽(現・山
西省太原)の人。年少の頃は、才能に慢心し、豪放磊落であり、飲酒をよくした。道州司馬に貶しめ
られ、赴任途上で亡くなった。

 涼州詞というのは、楽府の篇名で、涼州(現・甘肅省武威県)一帯に流行った歌曲のこと。唐の開元年間に郭知運によって伝えられ、詩人たちはこの詞調に乗って作詩した。西北の辺疆の風物や出征兵士の生活を歌ったものが多い。『涼州詞』(のメロディにのせてうたう詩歌)=辺疆の風光の詩、異国情緒の歌。即『涼州詞』の詩作ということである。辺塞詩、豪放詞は同じジャンルにはいるが、『涼州詞』にはその暗さを出すまいとする、強がりを強調する。この詩の形式は七言絶句です。
 王翰は、この『涼州詞』を二首連作している。これは、その一になり、二首めは次の通り。
 秦中花鳥已應闌,塞外風沙猶自寒。
 夜聽胡笳折楊柳,ヘ人意氣憶長安。

葡萄美酒夜光杯:
ブドウで作られたすばらしい酒が白玉の夜光杯(に盈たされている)。 ・葡萄美酒:ブドウで作られたすばらしい酒。ブドウは西域原産で、異国の酒、という雰囲気がある。 ・夜光杯:ガラスの杯。白玉の杯。ガラスはやはり西域のもの。現在の土産物の「夜光杯」とこの詩のものとが同一かどうかは分からない。
欲飲琵琶馬上催:
(酒を飲もうとすると)琵琶の音が馬上より聞こえてき、その響きが、飲酒を促しているように感じられる。或いは、(酒を飲もうとすると)琵琶の音が馬上より聞こえてきたので、流しの琵琶弾きである馬上の女性に、演奏を注文した。 ・欲飮:飲もうとする。 ・琵琶:弦楽器。西域から伝わったものである。 ・馬上:馬の上。ここでは琵琶を弾く者が乗っている。「琵琶」と「馬
上」は、深い結びつきがある。王昭君を引用している句である。

酔臥沙場君莫笑:
酔っぱらって、戦場の土の上にごろりと横になっても、貴君よ、笑ってくれるな。 ・醉臥:酔っぱらって、横になる。 ・臥:ふす。横になる。ここでは隠棲すること。 ・沙場:戦場。(砂漠地帯などの)戦場。乾燥した原野。乾燥して砂埃が立つ原野。戦場は、塵土飛揚し、飛沙走石となるため、戦場の比喩として使われる。 ・君:あなた。貴君。比較的軽い敬称。 ・莫笑:笑うな。 ・莫:禁止や否定を表す。ここでは禁止。

古来征戦幾人回:
昔より、出征した兵士が何人還ってきたことだろうか。 ・古來:昔より。 ・征戰:出征。戦に行くこと。 ・幾人回:何人が還ってきただろうか。


涼州詞

葡萄の美酒  夜光の杯,

飮まんと欲して 琵琶  馬上に催す。

醉いて沙場に臥す  君笑ふ莫れ,

古來征戰  幾人か回る。










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漢文委員会  紀 頌之