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   謝眺詩 玉階怨,王孫遊,金谷聚

謝眺詩 玉階怨,王孫遊,金谷聚



六朝の詩人


謝眺詩 玉階怨,王孫遊,金谷聚


 李白の初期の作品に柔らかさを加えたのは謝霊運、謝眺らの影響が強い。李白の詩のうち柔らかい詩は普通に見れば模倣とみられるほどの謝眺ら影響を受けている。
謝眺詩 @玉階怨A王孫遊B金谷聚C同王主薄有所思D遊東田

 謝眺@玉階怨、李白にも同名の詩がある(玉階怨 李白39 ブログ李白39)ことは、示しているが次にあげるは250年前後昔の南斉の詩人謝?である。
          
@玉階怨
夕殿下珠簾,流螢飛復息。
長夜縫羅衣,思君此何極。

大理石のきざはしで区切られた中にいての満たされぬ思い。
夕方になると後宮では、玉で作ったスダレが下される。飛び交えるのはホタルで、飛んだり、とまったり繰り返している。
長い夜を一人で過ごすために、あなたに着てもらうためのうすぎぬのころもを縫っている。あなたを思い焦がれる気持ちは、いつ終わる時があるのだろうか。

玉階怨
楽府相和歌辞・楚調曲。『古詩源』巻十二にも録されている。

夕殿下珠簾、流螢飛復息。
夕方になると後宮では、玉で作ったスダレが下される。飛び交えるのはホタルで、飛んだり、とまったり繰り返している。
・夕殿:夕方の宮殿で。 ・下:おろす。 ・珠簾:玉で作ったスダレ。 ・流螢:飛び交うホタル。 ・飛復息:飛んでは、また、とまる。飛んだりとまったりすることの繰り返しをいう。・息 とまる。文の終わりについて、語調を整える助詞。

長夜縫羅衣、思君此何極。
長い夜を一人で過ごすために、あなたに着てもらうためのうすぎぬのころもを縫っている。あなたを思い焦がれる気持ちは、いつ終わる時があるのだろうか。 
・長夜:夜もすがら。普通、秋の夜長や冬の長い夜をいうが、一人待つ夜は長い。ホタルのように私もあなたのもとに飛べればいいのにそれはできない。せめてあなたにまとってもらいたい肌着を作っている。 ・縫:ぬう。 ・羅衣:うすぎぬのころも。肌着。・思君:貴男を思い焦がれる。 ・此:ここ。これ。 ・何極:終わる時があろうか。

玉階怨(玉のきざはしにさえぎられた思い)
夕殿 珠簾を下し,流螢 飛び 復(また) 息(とま)る。
長夜 羅衣を 縫ひ,君を思うこと 此に なんぞ極(きわ)まらん。


李白の『玉階怨』
「玉階生白露、 夜久侵羅襪。却下水晶簾、 玲瓏望秋月。」(白玉の階きざはしに白い露が珠のように結露し、夜は更けて羅(うすぎぬ)の襪(くつした)につめたさが侵みてくる。露に潤った水晶の簾をさっとおろした、透き通った水精の簾を通り抜けてきた秋の澄んだ月光が玉の光り輝くのを眺めているだけ。)

詩名は同じだし、雰囲気も同じにしている、しかし、圧倒的に違うのは、場面の情報量と語の使い方の面白さにある。「似て非なるもの」と言わざるを得ない。影響は受けているが格段の違いがある。しかし、謝?の詩の雰囲気についてかなりの影響を受けたものである。



A王孫遊 謝眺
国趨如絲,雜樹紅英發。
無論君不歸,君歸芳已歇。

緑の草のツルが糸のように伸びて、見も心もが絡みつく。色々な木々に赤く美しい花が開く春になった。
いうまでもなく、あなたが帰ってこなくとも。あなたが帰ってきたときは、若きかおりはすでにおとろえていることでしょう。

王孫遊
国吹@ 蔓(つる) 絲の如く,雜樹  紅英 發く。
無論  君 歸えらず とも,君 歸えるとも  芳(かを)り 已(すで)に歇(や)む。

王孫遊
雑曲歌辞。公子が女性のもとを離れて旅路に就いている。通い婚で、より寄り付かなくなったのか。当時は身分が低くても妾を持った。身分が高ければ妻がたくさん居てもおかしくない。

国趨如絲、雜樹紅英發。
緑の草のツルが糸のように伸びて、見も心もが絡みつく。色々な木々に赤く美しい花が開く春になった。 
・国吹F緑の草。 ・蔓:ツル。つる草。 ・如絲:糸のようである。また、「絲」「思」「男女」の掛詞で、糸のように伸びて絡みつくこと。 ・絲:「思」「姿」に掛けている。 ・雜樹:雑木(林)。 ・紅英:赤い花びら。美しい花。 ・發:開く。

無論君不歸、君歸芳已歇。
いうまでもなく、あなたが帰ってこなくとも。あなたが帰ってきたときは、若きかおりはすでにおとろえていることでしょう。(あなたも加齢しているのよ)
・無論:いうまでもない、勿論。…にかかわらず、どうあろうとも、とにかく。 ・君:あなた。。 ・不歸:帰ってこない。 ・君歸:あなたが帰ってくる。 ・芳:女の若さのよさ。



B金谷聚           

渠碗送佳人,玉杯邀上客。
車馬一東西,別後思今夕。

大きいお椀の料理でのもてなしは、愛する人を送りだす。玉の盃は、立派な客を迎える。 
乗り物に乗って、ひとたび東と西に別れ去れば。別れた後、今日のこの夕べのおもてなしを懐かしく思い出してください。 

金谷聚
渠碗(きょわん) 佳人を 送り,玉杯 上客を 邀(むか)ふ。
車馬 一(ひとたび) 東西にせられ,別後 今夕を 思はん。

金谷聚
楽府相和歌辞・楚調曲。『古詩源』巻十二にも録されている。

渠碗送佳人、玉杯邀上客。
大きいお椀の料理でのもてなしは、愛する人を送りだす。玉の盃は、立派な客を迎える。 
・渠:大きい ・送:送別する。 ・佳人:美人。愛する人、情人。友人。・玉杯:玉(ぎょく)の盃。飲み物、お酒をいう。 ・邀:〔よう〕むかえる。 ・上客:立派な客人。すぐれた人。

車馬一東西、別後思今夕。
乗り物に乗って、ひとたび東と西に別れ去れば。別れた後、今日のこの夕べのおもてなしを懐かしく思い出してください。 
・車馬:乗り物。乗り物に乗って行くこと。 ・一:ひとたび。 ・東西:東と西に別れ去る。・別後:別れたあと。 ・思:懐かしく思い出す。 ・今夕:今日のこの夕べ。




C同王主薄有所思

佳期期未歸,望望下鳴機。
徘徊東陌上,月出行人稀。

逢瀬の約束をして待っているのに、まだ来てくれない。 こんなにも切なくてやりきれないハタを織るのをやめた。東の方の道の辺りを行ったり来たりさまよい歩く。 月が東の方から出てくる宵になると、道を行く人の姿は、まれになる。 

同王主薄有所思
王主薄の 思ふ所有りに 同す
佳期 期すれども  未だ歸らず,
望望として  鳴機を 下(くだ)る。
徘徊す  東陌の上,
月 出でて  行人 稀(まれ)なり。


同王主薄有所思
王主薄の作った「有所思」に和して作る。楽府相和歌辞・楚調曲。『古詩源』巻十二にも録されている。

佳期期未歸、望望下鳴機
逢瀬の約束をして待っているのに、まだ来てくれない。 こんなにも切なくてやりきれないハタを織るのをやめた。
・佳期美人と約束をして会うこと。男女が日時を決めて会うこと。よい時節。逢瀬の約束。(ブログ7/6李白53大堤曲 李白53大堤曲にまったく同じにつかう。) ・期 会う。待ちもうける。契る。約束する。 ・未歸 (男性がまだやって来ない。 ・歸 来てくれる。かえる。・望望:失意のさま。恥じるさま。去って顧みないさま。思い慕うさま。 ・下:やめる。おりる。 ・鳴機:ハタを(音を立てて)織る。ハタを織るは男女のことを連想する道具。

徘徊東陌上、月出行人稀
東の方の道の辺りを行ったり来たりさまよい歩く。 月が東の方から出てくる宵になると、道を行く人の姿は、まれになる。  
・徘徊:行ったり来たりする。さまよい歩く。 ・東陌:東の方の道。 ・陌:東西に通ずるあぜ道。 ・上:かたわら。ほとり。…で。…に。漠然と場所を指す。・月出:月が東の方から出る。宵になること。 ・行人:道を行く人。旅人。 ・稀:まれである。

太堤曲で「大堤の下で逢うことを約束したのに来てくれない、南の空の雲をみると、涙がすぐにもこみあげてくる。」この詩で、「こんなにも切なくてやりきれないハタを織るのをやめた」。
心情は同じである。佳期について、結婚の時期という解釈もあるが、この時代は、女性のことを詠うのは、貴族、王族の本人か、各階層の芸妓についてしか詩にしないのが原則だ。地方政府の営む芸妓が貴族屋敷の芸妓のなる約束があった。それを守ってくれないという意味では広く考えて嫁入りといえるかもしれない。ここは約束すっぽかされて失望した芸妓について詠っているとしたほうがよい。この詩を受けて、李白が襄陽の大堤の花街の女性の「佳期」を詠ったとみるべきである。




D遊東田
戚戚苦無踪、攜手共行樂。
尋雲陟累舎、隨山望菌閣。
遠樹曖仟仟、生煙紛漠漠。
魚戲新荷動、鳥散餘花落。
不對芳春酒、還望青山郭。

憂愁深く楽しみの無いのに苦しみ
友と手を携えて一緒に山野を行楽する
雲の高さを尋ねては幾重にも重なる高殿に登り
山道をたどっては美しい楼閣を遠くに眺める
遠くの木々はぼんやりとかすみつつ生い茂り
わき上がる靄は果てしなく広がっている
魚が戯れつつ泳ぐと 芽生えたばかりのハスの葉が動き
鳥が木から飛び立つと 春の名残の花は散り落ちる
芳しい春の酒には目もくれず

戚戚(せきせき)として踪(たの)しみ無きに苦しみ
手を携へて共に行楽す
雲を尋ねて累舎に陟(のぼ)り
山に随(したが)ひて菌閣を望む
遠樹 曖として仟仟(せんせん)
生煙 紛として漠漠
魚戯れて 新荷動き
鳥散じて 余花落つ
対(むか)はず 芳春の酒
還(かへ)って望む 青山の郭


戚戚苦無踪、攜手共行樂。
憂愁深く楽しみの無いのに苦しみ
友と手を携えて一緒に山野を行楽する
○戚戚 戚:みうち。ひどく悲しむ。心痛める。 ○踪 足跡。ゆくえ。○攜手 手をつなぐ。

尋雲陟累舎、隨山望菌閣。
雲の高さを尋ねては幾重にも重なる高殿に登り
山道をたどっては美しい楼閣を遠くに眺める
○陟 のぼる 昇進する。 ○?? 幾重にも重なる高殿 ・?:つらなる ・?:屋根のある見張り台 高殿  隨山望菌閣。


遠樹曖仟仟、生煙紛漠漠。
遠くの木々はぼんやりとかすみつつ生い茂り
わき上がる靄は果てしなく広がっている

魚戲新荷動、鳥散餘花落。
魚が戯れつつ泳ぐと 芽生えたばかりのハスの葉が動き
鳥が木から飛び立つと 春の名残の花は散り落ちる

不對芳春酒、還望青山郭。
芳しい春の酒には目もくれず
振り返って青い山々の先にある街を望む


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